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東京外国語大学舩田クラーセン(船田クラーセンさやか)の公式ブログです。アフリカ・市民社会(NGO)・環境関係のイベントや授業、耳寄り情報を流しています。特に、アフリカに関心を寄せる学生の皆さん必読情報を満載しています。 ************************ *************** 現在、朝日新聞Web版(アサヒ.コム)に記事を連載中。 「魅惑大陸アフリカ」「モザイクアフリカ」のページ をご覧ください。【連載】変わりゆくアフリカ最前線   http://www.asahi.com/international/africa/mosaic/ *********************************** ** This is an Official Blog Site of Sayaka FUNADA-CLASSEN,Associate Professor of Tokyo University of Foreign Studies (TUFS). The following info. is about events & classes on Africa, Civil Society (NGOs), Environmental issues. English/Portuguese sites are not yet available... Sorry, but please study Japanese!
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5月19日(火)の公開ゼミで観た「アブバとヤーバ」の私の
感想がとっても遅くなりました。監督の大宮さん、ごめんな
さい!http://africaclass.blog.shinobi.jp/Entry/282/
(学生の感想は過去ログで)

今朝の朝日新聞のアフリカ特集で、岩田記者がちゃーんと
取り上げてくれました!岩田さん、ありがとう。
上映予定は公式ブログヘ
http://abubayaaba.blog42.fc2.com/


アブバとヤーバを観て
~遠くの、近くの大切な人に会いに行こう

これは、アフリカのスーダンという国のおばあさん(アブバ)と
おじいさん(ヤーバ)と、日本のおばあさん(小山さん)とおじ
いさん(石井さん)の、話。あなたの隣にいるかもしれない「フ
ツウの人びと」の。

人生の最終章にさしかかる「フツウの人びと」の、しかし戦争後
を生きる話。

**

映画を観終わって感じることはただ一つ。

私たちは、こんなにも離れていながら「近く」、こんなにも近く
にいながら「遠い」、と。
 

遠いアフリカ、遠いスーダン、遠い戦争の話…。

なのに、なぜガボジイ(おじいちゃん)とタネガシマノおばあち
ゃんのことを無性に想い出してしまうのだろう。会いたい人は、
しかし、もういない。
 

*****

監督の大宮さんは、JICA(国際協力機構)で働いていたという。
JICAは日本の国際協力の主要機関。そして舞台は長い戦争が終わっ
た(部分的ではあるが)スーダン…。何も知らない人がそれだけ
聞いたら、ああ現地で暮らす人々の大変な様子が描かれるのだろ
う、と早合点するかもしれない。しかし、スーダンの日常と日本の
日常の光景が交差していくうちに、互いが溶け合い、どちらがどち
らの光景なのか分からなくなっていく。

そのうち、観客は自らの日常に彼らの日常を重ね合わせ、それが
例えスーダンのおばあさんであっても、あたかも隣人に出会うかの
ような錯覚に陥る。確かに、景色はまったくといっていい程異なる。
スクリーンに映し出される乾燥した大地をゆっくりと往く牛と少
年アフメッド。マンゴーの巨木の下で静かに休憩するお年寄りたち。
なのに、なぜか懐かしい。

 

大宮さんは、JICA退職後にこの映画の製作を開始したという。
援助の世界は、どうやっても、「あげる側もらう側」の垂直関係の
呪縛を乗り越えることはできないものである。特に、それを仕事と
してしまった瞬間、現地の人びととの関係が変わらざるをえないこ
とを、多くの関係者が感じてきた。若い頃の理想は彼方に追いやら
れ、こなさなければならない「仕事」としての援助が、意図したわ
けではないのに、人びと一人一人の想いや個性を踏みにじっていく。
そんなことの繰り返し。私もまた、歯車の一部になって、そのよう
な仕事に携わったことがある。

大宮さんが、援助の世界で何を見て、何を感じ、何を考えてこの
映画をつくろうとしたのかは、本当のところ分からない。でも、一
つだけ明らかなことは、大宮さんは、身にまとってきた色々なもの
をストーンと落として、この映画をつくろうとしたのだという点で
ある。カメラは軽々と、人びとの生活の中へ、一人一人の言葉が発
せられる身体へと、潜り込もうとする。

「立ち止まること」…かつて自分に言い聞かせたあの言葉を、長
い時間止まったままの大宮さんのカメラワークに見出した気がした
としたら、それは私の勝手な妄想だろうか。


 

この映画の主人公はお年寄りたちである。スーダンと日本の。ロ
ダさんとヨセパさんという名前の77歳と83歳の。石井さんと小山さ
んという85歳と77歳の。これらの人びとは、「特別な人」ではない。
隣に住んでいそうな「無名」の人びと。大宮さんとの出会いがなけ
れば、映画の主人公たりえなかったであろう人びと。その意味で、
ロダさんでなくても、ヨセパさんでなくても、石井さんでなくても、
小山さんでなくてもよかったかもしれない。スーダン南部ジュバで
なくても、千葉や東京でなくても良かったかもしれない。北海道で
も、広島でも、アンゴラでも、アフガニスタンでも良かった。

でも、映画を観終わって感じるのは、やはりロダさん、ヨセパさ
ん、石井さん、小山さんでなくてはならなかった、ということであ
る。「無名」の人びとの「有名」性―固有性、そして共通する「何
か」こそが、この映画の魅力である。

 

国家や武装勢力の扇動に基づいて、人が人を殺す戦争を経験した
これらの「無名の」人びと。映画として声高に国家の罪を糾弾し、
反戦を唱えることは容易である。また、戦争で明らかな被害を受け
た人の証言を記録した映画は、数多く作られてきた。しかし、大宮
さんはそんなやり方を取らない。これといって生々しい経験をした
わけではない登場人物の一言、一言に、徹底的に付き合うのである。
だから、話はなかなか前に進まない。若い学生はイライラする。で
も、当然なのだ。大宮さんがやろうとしたことは、ドラマを見せる
ことではないのだ。俳優ではない、生身の普通の隣のおじちゃん
・ヤーバ、おばちゃん・アブバが、自分の言葉で自分の人生を語ろ
うとするのを、じっと撮るのである。そうして、「大きな歴史事
件」が、どのように「フツウの我々」の「フツウの先輩」によって、
日常としてどのように生きてこられたのかが描き出されている。

 

 しかし、戦争あるいは戦後の話だけではない。この映画の縦軸は、
やはり日本の小山さんとスーダンの少年アフメッドの交流であろう。
そして、小山さんから広がる、人の輪がのびやかに描かれている。
小山さんのいずれの人の輪も、ある意味で「新しい」ものである。
子どもがおらず、夫に先立たれ、一人で暮らす小山さんは、日本
の新聞では「孤独老人」と表現されかねない。しかし、画面に映る
小山さんは、生き生きとしている。遠いスーダンにいるアフメッド
との文通。認知症を抱える家族同士の支えあいの会(「銀の会」)
を通しての交流。さらには、77歳にして小山さんはコンピュータを
学ぼうとしている。家族や村に依存してきた社会関係の基盤が急速
に破綻しつつある日本の現在において、小山さんが実践する「新し
い人の絆」は示唆に富んでいる。他方、横軸として描かれる石井さ
んやロダさん夫婦の生活では、切れてしまった家族のつながりが、
隠された主題のように最初から最後までついて回る。

 

この映画は、国や、地域や、人種を越え、「近くて遠い」、「遠
くて近い」、人の人との結びつきを、考えさせる。拒絶しながらも
失われたものを追慕する人間の弱さと、それでも毎日をしっかり生
き続ける人間の強さを、我々だってどこかに持っているはずなのだ。
そして、それを遠くにいるはずの人たちから学ぶ。遠いからこそ、
浮かび上がってくるものを胸に、自分の身の回り、そして自分自身
の中を探る。その往復運動こそが、スーダンと日本の光景、アブ
バとヤーバとおばあちゃんとおじいちゃんの違いを溶かしていった
原因かもしれない。

 

人は一人では生きられない。

だからもう一度、

あなたは、アフリカを知っていますか?

あなたの隣人を知っていますか?

 

遠くの、近くの、「大切な人」に会いに行こう。
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プロフィール
HN:
舩田クラーセンさやか
性別:
非公開
自己紹介:
舩田クラーセンさやか
東京外国語大学 外国語学部 准教授
(特別活動法人)TICAD市民社会フォーラム 副代表

専門は、アフリカにおける紛争と平和の学際的研究。
モザンビークをはじめとする南東部アフリカの調査・
研究に従事。大学では、ポルトガル語・アフリカ地域
研究・紛争と平和を教える。

1993年よりNGO活動に積極的に関わり、援助改革、
アフリカと日本をつなぐ市民活動に奔走。

国際関係学博士(2006年 津田塾大学)
国際関係学修士(1995年 神戸市立外国語大学)

-1994年、国連モザンビーク活動(ONUMOZ)で国連ボラン ティアとして選挙支援に携わる。
-1996年、和平後のパレスチナ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナで政府派遣選挙監視団に参加。
-1995年、阪神淡路大震災時のボランティアコーディネイター(神戸市中央区)
-2000年より、モザンビーク洪水被害者支援ネットワーク(モザンビーク支援ネットワークに改称)設立、代表を務める。
-2002年、「食糧増産援助を問うネットワーク(2KRネット)」設立に関わる。
-2004年より、(特別活動法人)TICAD市民社会フォーラム 副代表に就任。
-2007年8月より、TICAD IV・NGOネットワーク(TNnet) 運営委員に就任。

単著『モザンビーク解放闘争史~モザンビーク現代政治における「統一」と「分裂」の起源を求めて』御茶ノ水書房 2007年
(日本アフリカ学会 研究奨励賞<2008年度>受賞)

共著 The Japanese in Latin America, Illinois University Press, 2004.
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